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透明感のある音で風を感じて涼をとる、300年続く江戸風鈴の魅力

江戸風鈴の一番人気の柄は金魚。「五匹金魚」(2,300円税別)

夏になると街のあちこちで見かける風鈴。涼やかな音色を聞くと、なんだかほっと一息つけますね。300年前から変わらない技法で作られてきたガラス製の「江戸風鈴」。篠原風鈴本舗の4代目、女性職人の篠原由香利さんにその魅力を伺いました。

 

 

300年続く伝統工芸品「江戸風鈴」とは

ガラス製の風鈴は今から約300年前の江戸時代中期に、長崎のビードロ師が江戸で実演展示をしたことをきっかけに、江戸(現在の東京)にも広まったといわれています。昭和40年(1965年)ごろ、篠原風鈴本舗2代目の篠原儀治さんが、当時は「ガラス風鈴」などと呼ばれていたものを「江戸風鈴」と名付けたことで、江戸風鈴という呼び名が生まれました。

江戸風鈴の特徴は大きく3つあります。

1.「宙吹き(ちゅうぶき)」という方法で作る
2.鳴り口(切断面)をギザギザにする
3.絵を内側から描き入れる


宙吹きとは、型を使わずに空中でガラスをふくらませる手法のこと。鳴り口をギザギザにするのは音色をよくするためです。ちなみに江戸風鈴を作っているのは都内でもう2工房だけ。江戸風鈴に限らず、ガラス製の風鈴を通年作っているところは国内に少なく、多くは輸入しているのだそうです。

 

 

実は魔除けだった!? 江戸風鈴の種類や柄

伝統的な赤い江戸風鈴。「宝船を待つ」(1,700円税別)

江戸風鈴は直径7~8cmの「小丸(こまる)」と呼ばれる小さめサイズが主流で、価格は2,000円前後から。形は丸型やひょうたん型があり、柄は金魚・花火・花などが定番。ただ、涼を感じるような夏らしいデザインは、ここ数十年ででてきた比較的新しいものだそう。 「昔は今のように夏に涼しさを楽しむものではなく、魔除けの鈴として使われていて、40~50年前までは赤く塗られた風鈴が定番でした。これは宝船と松の絵が描かれ、"宝船がやってくるのを待つ"というシャレになっています。赤い色と風鈴の音を魔除けに、さらに柄で福を呼び込もうとしていたんですね」(由香利さん)。

 

 

職人技が光る、江戸風鈴の作り方

江戸風鈴の工程は、ガラス吹きと絵付けに分けられます。

<ガラス吹き>
ガラス吹きの工程は、男性職人が行っている

ガラス吹きは、1320度前後の高温の炉の中に溶けているガラスを、"ともざお"というガラス棒でまきとってふくらませる作業です。まずは口玉といわれる小さな玉を作ります。この部分は最終的に切り落とされ、鳴り口になります。次に風鈴本体となる部分を少しふくらませ、針金で糸を通すための穴を開け、その後一息でふくらませます。

このように型を使わず空中でふくらませる方法を宙吹き(ちゅうぶき)といい、江戸時代から続く伝統的な作り方です。

 

 

左端の列が口玉の部分を切り落としたもの

冷めたら口玉部分を切り落とし、鳴り口を石のやすりで整えます。

 

 

<絵付け>
色の粉は9色あり、混ぜることであらゆる色が表現できる。柄によって絵の具の固さも調整する

絵付けは内側から絵を描いていく作業で、由香利さんが担当している工程でもあります。粉を油で溶いた絵の具を使い、ハケで描いていきます。内側に描くので下書きなしですが、由香利さんは迷いのないタッチで、美しい絵柄を仕上げていました。一見すると、そっとハケを置いているだけのようなのに花びらの表情が1枚ごと違うので驚きます。

「表面的な技術なら2~3年で得られるかもしれませんが、ある程度深いところまで理解するには、どちらも10年くらいはかかります。もちろん10年経てば一人前ということではなく、ようやくスタートラインに立てる感じですね」(由香利さん)。

 

 

現代的な感性で、街並みや猫の絵柄を風鈴に

由香利さんがデザインした「踊る猫また」

風鈴工房に生まれた由香利さんが、本格的に風鈴の道に進むと決めたのは大学を卒業してから。子どものころから工房を手伝っていたこともあり、自然な流れでこの道に進むことを決めたといいます。風鈴職人になってすでに15年以上が経ちます。

定番の絵柄のほかに、東京の街並みや猫をモチーフにした柄など個性的な絵柄にも挑戦する由香利さん。そうした作品は「東京の伝統的工芸品チャレンジ大賞 奨励賞」をはじめ、数々の賞を受賞し、高い評価を受けています。

 

 

「とくにテーマは決めず、これを描いたらおもしろいかなと思うもの、パッとみてほしいと思ってもらえるものを作りたいなと思っています。

よくこの仕事をしていると、『伝統を守ってくれてありがとう』といわれることがあるのですが、本当は伝統を守るのは私たちではないんですよね。使ってもらうことではじめて伝統として残っていけると思っています。それもあって作った風鈴は作品として残すことはなく、すべて販売にまわします。自分が思ったのが形になって、しかもそれをお金を払って買ってもらえることはすごくありがたいと思いますね」(由香利さん)。

 

 

自由に楽しめるのも江戸風鈴の魅力

「日本人は音に対する感性が昔から鋭かったのではないかと思います。風鈴は江戸時代には魔除け、現代は夏のイメージですが、これからまた変わっていく感じもしています。好きなように楽しんでもらえたらと思います」(由香利さん)。

かつては軒下に飾るのが定番でしたが、最近はカーテンレールや鴨居を利用して、家の中で楽しむ人も増えてきているそう。風鈴用のスタンドもあり、気分によって付け替えもできます。しまうときは外側を眼鏡拭きなどやわらかい布でやさしく拭き、箱に入れて保管しておくとよいそうです。

 

 

「江戸風鈴は手作りなので大きさやがガラスの厚みが少しずつ違い、音色もすべて違います。ぜひ店頭では実際に鳴らして、好きな音色を探してみてください」(由香利さん)。

風を愛でるという日本人らしい美しい心。ぜひこの夏は江戸風鈴の音色で涼やかなひとときを過ごしてみませんか。

 

 

取材協力::篠原風鈴本舗
Photo:Hidehiro Yamada
Text:Emiko Furuya

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