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「病気になってよかったとは思えなかった」ずっと怒っていた私が怒りを自覚するまで

32歳という年齢で初期乳がんが見つかった水谷緑さん。検査から治療まで一連の出来事についてエッセイとして描いた作品『32歳で初期乳がん 全然受け入れてません』(竹書房)には、独身で妊娠出産もしていないのにどうしたらいいのだろうと葛藤する正直な心情が表れていました。

突然、理由もなく、命や今後の人生が脅かされる、ガンという理不尽な存在。そんな出来事に対して、水谷さんはどのように感じたのでしょうか。

【第1回】告知された時の思い

友達に「すごい怒ってたよね」と言われて

——今回の作品のタイトルがまた面白いなと思っていて。「受け入れてません」って、作者が怒った表情で表紙の中で立っている。

水谷緑さん(以下、水谷):最初は違うタイトルで連載していたんです。「32歳、初期乳がんになってわかったこと」というぼんやりしたタイトルだったので、編集の人とも考え直さないと、とは言っていたんです。そんな中、この本が出たのが7月なんですが、5月頃友人とお茶をしていたら「緑ちゃん すごい怒ってたよね」と言われて。それで、「あ、私、怒ってたんだ」って気づいたんです。

——自分では怒っていないと思っていた?

水谷:あまり自覚はしていなかったし、どちらかというとうまく隠せていると思っていました。だから「バレちゃってたか」という感覚が正しいですかね。でも、なんだか気持ちがラクになったんですよね。私が怒っていたことがバレていた、そして、それでも一緒にいてくれる友人がいる、ということを知ってホッとしたというか。

——その怒りというのは、ガンという理不尽な出来事に対して、ですか。

水谷:いろいろな側面があったと思います。ガンの理不尽さに対してもそうですし、それにより自分のすごくみっともない姿を見せつけられる瞬間が増えて、それに対しても怒っていました。あとは、他人にすごく期待していたんですよね。

周囲にもっと悲しがってほしいと願っていた

——他人に期待、ですか。たとえばご家族やご友人に対して、もっとしてほしいことやかけてほしい言葉があった、ということですか?

水谷:そうですね。ものすごく正直な気持ちを言えば、もっと悲しがって欲しかったんです。私が悲しむのと同じように、ずっと悲しんで一緒に泣いて欲しかった。ツラいのに頑張って偉いね、と言って欲しかった。でも実際は、ガンだと言ってもスルーされたり、重たい相談をした直後にインスタグラムで楽しそうな投稿をしていたり、母親には入院するときにケンカをして帰られてしまったり、期待していた通りにはならなかったんですよね。

今になって思えば、自分だって他人から重たい相談をされたら面倒臭いなと感じる瞬間もあるし、相手の気持ちもわかるところはあるのですが。自分がツラさの中にいると、どうしても自意識過剰になってしまうので、あまりいろんな人に言うのはよくないな、ということは学びました。いちいち傷ついてしまってつらいので。

——お母さんとのケンカの話は作中でも読んでいて衝撃でした。独身で闘病生活となると、やはり頼りになるのはご家族かなと思っていたので、そこで逃げられてしまったらどういう気持ちになるのだろう、と。

水谷:あの時の母の行動については、まだ自分の中で消化できていなくて……。一度、どうしていなくなってしまったのか、という話をしたのですが「知らない。また同じようなことがあったら、私は帰る」の一点張りなんですよ。でも、手術が終わったあとに、突然はちみつや生姜などを送ってきてくれたり、いたわりのメールが届いたりするようになって。

冷静に振り返ると、「考えたくない」というような感じではありましたね。娘もガンなのだ、ということを。膵臓ガンで亡くなった父のこともあるし、三人兄弟も全員自立して、母親が一人暮らしをするようなタイミングだったので、精神的に不安定だったのかな、と。私自身も、30歳も過ぎてお母さんに頼るのはどうなのかな、みたいな感覚もありましたが。

世の中には前向きさが求められがちだけど…

——ただ、作品には、そういったご友人やお母様に対する期待感なども赤裸々に描かれていることで、ある意味とてもリアルで親近感のある内容になっているなと思いました。

水谷:正直この作品、今までの作品に比べてあまり反応はよくないんですよね。やっぱり世間的には、理想像というか、病気に向かって前向きに頑張るような人の方が好まれるんだなとは思います。でも、私の経験に限った話でいえば、とても前向きにはなれなかったので。たくさんあるケースの中の一つとして、知っていてほしいなと思います。

——世の中には、病気を糧に頑張ることや、ハンディキャップがギフトだというような価値観もあり、確かにそれが風潮として強い印象はあります。

水谷:私は、「障害があったからよかった」とか「病気に前向きですね」みたいな表現には違和感があって。というのも、ならないで済むなら、ならない方がいいと思ってしまうので。捉え方や、表現の仕方はもちろんそれぞれでいいのですが、自分が受け入れられないと思うことを、納得しないまま無理に受け入れようとする必要はないと思います。

(取材・文:園田菜々、編集:ウートピ編集部 安次富陽子)