聞いちゃ悪いな、と思いつつもつい耳をそばだててしまう「盗み聞き」。偶然耳に入ってきた隣の席の会話から誰かの人生の一片を知ることも……。そんな盗み聞きについてつづった岡田育さんのエッセイ『天国飯と地獄耳』(キノブックス)が6月2日に発売されました。

東京で、鎌倉で、フランスで、そして移住先のニューヨークでごはんを食べながら「イケナイコト」とは知りつつも聞き耳を立てて妄想を膨らませたという岡田さんに3回にわたって話を聞きました。

第2回は、ニューヨークの暮らしについて伺いました。

【第1回】岡田育さんに聞く、“盗み聞き”の醍醐味

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ニューヨークは「肌が合う」

——ニューヨークには3年お住まいなんですよね?

岡田:この夏でちょうど3年になりますね。暮らしてみたら、私はすごく肌が合うので、大好きな街です。

——「肌が合う」というのはいろいろな人がいるってことですか?

岡田:やっぱりそうだと思います。東京にいて、どこか「息苦しいな」と思っていたことが、ニューヨークにいると「ない」という言い方が、一番近いかと。誰も私のことなんか気にしていない。

——「東京の息苦しさ」……。

岡田:一冊目に書いた本が『ハジの多い人生』というタイトルでした。私はずっと東京で生まれて育って、そういう意味ではいわゆる「日本の中心」にいたんですけれど、だからこそ、ずっと自分が外れ値であるような気持ちがありました。メインストリームではなくて、サブカルチャーの側、教室の真ん中にいる人気者ではなく、ハジッコで窓の外ばかり見ている、というような……。自分にとって自然な振る舞いをしているのに、周囲から「変わっているよね」と言われたりするのも、非常に違和感がありました。「普通でいるべきだ」と言われているような気がして。

ニューヨークはそれこそ「世界の中心」と呼んでも過言でないほどの大都市なわけですが、そこで暮らす人たちはみんな「自分が世界の中心だ」とは思ってない。

自分の人生が自分中心に回っているとしても、それが端から見てメジャーかどうか、普通かどうか、ということは全然気にしなくていい。人口分布だけ見ても、外国人や移民の比率が高くて文化的多様性があり、マイノリティこそがマジョリティ、という土地柄ですからね。それが私にとって生きやすいなと思いました。

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「年齢でスカート丈が決まると思っていた」

——まわりの友人を見ていても、みんな真面目で割と優秀な女性が多いんですが、だからこそ「きちんとしなくちゃ」とか「大人としての振る舞いをしなくては」と縛られているというか、我慢をしてしまっている女性が多いのかなと思っています。

岡田さんの「40歳までにコレをやめる」(大手小町)はそういう意味で、女性の「こうしなくては」という縛りを解いていくすばらしい連載だと思います。

岡田:ありがとうございます。あの連載も、東京に住んだまま書いていたら、別の書き方になっていたかもしれないなと思うことはありますね。

——というのは?

岡田:日本にいたら、みんなが共通して持っている価値観に照らしながら、「断捨離するのは大変いいことですよね」という話になっていたと思うんですが、日本から物理的な距離を置いただけでも、世の中いろいろな価値観や尺度があることを知り、その上で「だったら、周囲の空気を読みながらやっていたあれもこれも、しなくたっていいよね」と言えるようになったというか。より相対的、かつ、観念的な内容になっている気がします。

——なるほど。

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岡田:そもそも年齢を気にしなくなりますしね。私も東京でOLをしていた時期は「40歳までにこういうポジションにいなきゃ」とか、「30歳を過ぎたらこういう大人っぽいブランドの服を着なきゃ」とか、知らず知らずのうちに考えて縛られていた部分もあったんです。

それで35歳からアメリカの大学に通ったんですけれど「私は多分クラスメイトのなかで最年長だな、若作りして痛いって思われるのは嫌だな」と思っていたら、授業初日に50代の大学教授が超ミニのワンピースを着て来たんです。

学部の長で、私と同世代の娘がいる人なんですが、「ハイ! 私のクラスへようこそ」って、生徒の誰よりも攻めのファッションで。そういうのを目の当たりにすると、「なぜ年齢でスカート丈が決まると思っていたんだろう?」と考え方がひっくり返っていくんですよね。

——価値観がひっくり返っていくことの連続なんですね。

岡田:最初のうちは同世代の社会人留学生と「私たちも若くはないからね」みたいなことをしゃべっていたんですけど、2年制プログラムを卒業する頃には、「ニューヨーカー歴という換算でいうと、私たちは2歳だね。これから何にでもなれるよね!」という発想に変わっていたんです。開き直って無敵というか、恐ろしいですよね(笑)。

——すごい変化ですね!

岡田:そもそもあちらの人たちは年齢を気にしてないですし、見た目から年齢不詳な人も多いですし。本にも書いた通り、ものすごく老け顔の若者がいたり、その逆もあったり、同世代だと思っていた人が20代だったり60代だったり。年齢なんてあってないようなものだなと。

——相手に年齢は聞かない感じなんですか?

岡田:聞いても、ちゃんと答えてくれないんです。「私、何年生まれだっけ?」と、把握していない。生年月日や星座や血液型をちゃんと記憶しているのって、日本人くらいなんじゃないかな……。

私も最近は、年齢を聞かれても「over 30」とか、「almost 40」って言っていますね、そして「ニューヨーカー歴と英語力は2、3歳です」と(笑)。

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※次回は6月22日(金)掲載です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)